2020年から4年連続でミシュラン二つ星を獲得している、バンコクを代表するタイ料理のファインダイニングR-HAAN(アハーン)。
「タイ料理を語るなら、ここを食さずして語るべからず」と評されるほど、本格的な伝統タイ料理をコース形式で楽しめる名店です。
タイの食文化と美意識を現代に受け継ぐ一皿一皿。
今回は、その評判を舌で確かめるべく実際にR-HAANを訪れてきました。
R-HAAN(アハーン)とは?

Thonglor Soi 9の奥に静かに佇む、一軒家スタイルのファインダイニング。
タイのビールブランド「シンハー」の創業者一族にあたる Piti Bhirombhakdi氏と、タイ料理界の重鎮 Chef Chumpol Jangpra氏によって立ち上げられたレストランです。
店内の雰囲気

店に一歩足を踏み入れると、お花のような甘い香りがふわっと漂い、奥へと進むと、オーナーPiti氏の銅像が静かにゲストを迎えてくれます。
ダイニングはメインダイニングとプライベートダイニングの2つがあり、メインダイニングの方は広々とした空間に大きな窓があり、夜になるとやわらかな照明が反射して、静かな高揚感を生む上質な雰囲気に包まれます。

勘違いかもしれませんが、当日拝見した際、メインダイニングには欧米のゲストが多く、プライベートダイニングにはアジア系の方が多い印象を受けました。欧州ではかつて、似たような配席が話題になったレストランもあったため、少し気になった次第です。
R-HAAN(アハーン)のコースを実食レビュー
いよいよ本題のディナーコースへ。
R-HAANでは、季節ごとにテーマが変わる「サムラップ」が提供されています。
前菜からデザートまで、まるで“タイ全土を旅するような体験”が味わえる構成です。
R-HAAN メニュー|季節ごとに変わるサムラップ


今回は“タイ料理の叡智”をテーマにした季節コース Monsoon Samrubをいただきました。
AMUSE BOUCHE(前菜5種)
タイの5地域をモチーフにした一口サイズの前菜。
- 北部:豚ひき肉入り揚げヌードルロール)
- 中部:ブルーフィッシュのサテ
- 東北部:スリン産和牛のグリル 酸味と辛味の特製ソース添え
- 東部 :テナス・ロブスターの蒸し餃子
- 南部:プーケット蟹カレーコロッケ
4 Courses(コース4品)
Course1:タイガーシュリンプとサイアムチューリップの香草サラダ
Course 2:黒豚とシーサケート産エシャロットのアロマハーブコンソメ
Course 3 : カエルの脚のグリル 野生のチャプルーの葉とシダのサラダ添え
Course 4 :スービード(低温調理)した鴨卵の黄身 スイートブラウンソース添え
口直し
カオマオ(青米)ソルベ
メインディッシュ
- スイートバンブーとチキンのカレー
- R-HAAN特製トムヤムクン
- ラヨーン産蟹のスパイシーディップ
デザート(2品からチョイス)
- マンゴーカオニャオ
- 黒ココナッツプリンとタイティーアイスクリーム
プティフール
・若米のカヌレ
・季節の花のライスケーキ
・タイ産チョコレートボンボン
・ピンクグァバと塩梅のキャンディ
コース料理は1人5,512THB++。ワインペアリングは追加で3,812THB++(税・サービス料別)です。
タイの5つの地域を旅する前菜5種


タイの5地域をモチーフにした、一口サイズの前菜です。
上から
- 北部: 豚ひき肉入り揚げヌードルロール
- 東北部: スリン産和牛のグリル(酸味と辛味の特製ソース添え)
- 中部: ブルーフィッシュのサ
- 東部: テナス・ロブスターの蒸し餃子
- 南部: プーケット蟹カレーコロッケ
黄金の箱がテーブルに運ばれてきました。スタッフが「Welcome to Thailand」と微笑みながら蓋を開けると、中にはタイの地図が描かれており、各地域の上にアミューズが並んでいました。
それぞれの位置は、食材の産地を示しているそうです。この演出のおかげで、まるで“タイ全土を旅しているような感覚”になります。
「スリンでは和牛を育てているんだ」という小さな驚きもありました。
個人的に特に印象的だったのは、濃厚で香り高いプーケット蟹カレーコロッケと、ピリッとした辛味が心地よいテナス・ロブスターの蒸し餃子でした。
Course1:タイガーシュリンプとサイアムチューリップの香草サラダ


肉厚のタイガーシュリンプに、サイアムチューリップと香草を合わせた前菜です。
ハーブの香りがふわっと広がり、ひと口で爽やかな余韻が残ります。海老は素材の味そのまま。(本心を言うと少し味付けされている方が好き)
ここでペアリングワインの1杯目がサーブされました。ドイツ・ラインガウ地方のリースリング。
「ドイツのリースリングは甘口が多いよね」とつぶやくと、「これはドライだ」と、強めに言われてタジタジ。
その言葉どおり、口に含むと想像よりもシャープな酸味。ハーブと海老の香りを引き立てる、清涼感のある一杯でした。
Course 2:黒豚とシーサケート産エシャロットのアロマハーブコンソメ


柔らかく煮込まれた黒豚に、熱々のコンソメを注いでいただきます。
上には小さなお団子のようなものがのっていて、食材を尋ねたのですが、残念ながら失念してしまいました。
スープの中でふわりと香るエシャロットが、良いアクセントになっています。
ペアリングのワインは、アルザスのゲヴュルツトラミネール。
Course 3 : カエルの脚のグリル 野生のチャプルーの葉とシダのサラダ添え


「こちらはカエルです」と告げられ、思わず少しギョッとしました。おそらく、人生でカエルを食べるのは三度目くらいです・・・。
しかし、しっかりとグリルされていて、味付けもやや濃いめ。独特の風味はほとんど感じず、香ばしさが際立っていて、とても美味しくいただけました。
ペアリングのワインは、私が最も好きなアルザスのリースリング。すっきりとした酸味が、グリルの香ばしさをきれいに洗い流してくれます。
Course 4 :スービード(低温調理)した鴨卵の黄身 スイートブラウンソース添え


花びらやハーブの葉が散りばめられ、黄色のソースが描くように盛り付けられた皿は、まるで一枚の絵画のように美しい。
テーブルに運ばれたあと、仕上げに温かなブラウンソースが静かにかけられます。
このソースにはほんのりとした甘みがあり、黄身と混ぜ合わせると、なぜか“みたらし団子”を思わせる懐かしい味わい。
添えられたベリーライスケーキと一緒に口にすると、まるでデザートのような不思議な一皿です。
ペアリングのワインはオーストラリアのシラーズ。
しっかりとした果実味が、ソースの甘みと美しく調和していました。
口直しのソルベ


カオマックのシャーベットは、甘酒のようなやさしい味わいです。
ほのかな発酵の香りとやさしい甘みが、口の中をそっとリセットしてくれます。
メインディッシュ


メインディッシュはこの3皿です。
- スイートバンブーとチキンのカレー
- R-HAAN特製トムヤムクン
- ラヨーン産蟹のスパイシーディップ


中でも特筆すべきは、トムヤムクン。
大きなエビがふたつ盛られた器の前に、スタッフがサイフォン式のガラス容器を持ってきました。
上の層にはレモングラス、カー(タイ生姜)、パクチーなどトムヤムの香りの要がぎっしり。
下のフラスコにはベースとなるスープが入っていて、
加熱されると蒸気圧でスープが上へと上がり、
ハーブの香りを通して再び下に戻る。まるで香りを“淹れる”ような儀式です。


ぷりっぷりっと、噛むたびに音がしそうなほど肉厚のエビ。
その存在感もさることながら、何より印象的だったのはトムヤムスープの味です。
これまでどこで食べたトムヤムよりも、香りが繊細で、深みがありました。
酸味・辛味・旨味のバランスが完璧で、一口ごとに身体が目を覚ますような感覚です。
ペアリングのワインは、ボルドーのレ・ペリエール。ほんのりスパイスを感じる香りと上品な酸味が、トムヤムスープの深みと見事に調和していました。
デザート


デザートは2種類から選べます。
- マンゴーカオニャオ
- 黒ココナッツプリンとタイティーアイスクリーム
この時点で、すでにお腹はかなりいっぱい。私はマンゴーカオニャオをお持ち帰りにさせてもらいました。
同行者が選んだ黒ココナッツプリンを一口だけいただいたのですが、小石のように固そうな見た目からは想像もつかないほど、中はとろけるようになめらか。
さらに中央にはタイティーアイスが隠れていて、そのギャップが見事でした。
ペアリングのワインは、ロワール地方の貴腐ワイン。デザートは食べられませんでしたが、こちらはしっかり食後酒として楽しみました。
プティフール


食後のプティフールは、タイらしい遊び心のある4種です。
- 若米のカヌレ
- 季節の花のライスケーキ
- タイ産チョコレートボンボン
- ピンクグァバと塩梅のキャンディ
小さな一口ごとに、甘みや香り、食感が少しずつ変化していきます。
どれも繊細で、最後まで“タイの余韻”を感じさせる締めくくりでした。
まとめ
店内のインテリアも美しく、照明や器のひとつひとつにまで品があり、とても優雅な時間を過ごすことができました。
ワインペアリングも見事で、料理ごとに香りや温度のバランスが変化し、食のストーリーをより深く感じられる構成でした。
中でも、メインのトムヤムクンは圧巻。香り・旨味・演出のすべてが調和していて、「これぞR-HAAN」と言える一皿だったと思います。
一方で、いくつか気になる点もありました。
最初のアミューズの提供がやや遅かったこと、スタッフの対応に少し温度差を感じたこと、そしてワインの説明で「これはドライです」と言い切られた瞬間には、少しだけ違和感もありました。
それでも、料理の完成度と空間体験の質を考えれば、一度は訪れる価値のあるレストランかと思います。食を“文化として味わう”という意味で、ここでの時間はとても印象的でした。










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